古都トレドの隠れた魅力

Art

スペインの古都トレド。この町の豊かさは何度も訪れ歩き回り、掘り下げて発見していくしかありません。発見したものについては、帰宅後新たに調査しもっと掘り下げていくと、本当に面白い発見や出会いが続きます。30年以上も訪問し続けていると最終的にトレド文化界の中枢に存在する興味深い人々とのコンタクトができ、益々深いトレドに接触するチャンスに恵まれてゆきます。

迷路の町トレドの隠れた部分には、21世紀になっても1000年、2000年と歴史あるものが民家の中にでさえ隠れており、数日前は14世紀の木造ムデハル様式建造物の修復の様子を見せてもらいました。この建物は100年くらい前に出版されたトレド文化財図録には登場しないので、嬉しい大発見でした。もうひとつ前々から見学したかったトレドのアカデミーがあった14世紀の建物も、偶然知り合いが購入し現在修復しているということで、次回のトレド訪問は、この修復中の建物を見る訪問になりそうです。

 

2022年はアルフォンソ10世賢王、生誕800周年なので各地で展覧会があり、その展覧会を見に美術品コレクターの友人2人と訪れたのですが、ポップな現代風の展示でかなり残念なものでした。

常設展示のグレコの作品に少し変化があったので、そちらを楽しんできました。二人のコレクターがエルグレコの筆使いを熱烈に話してくれるのですが、こういった作品に大金を投資し鑑賞する人達の情熱には感動させられます。エルグレコの工房についての話やベネチア時代の色合いなど、改めてスペインを代表する画家はベラスケス、ゴヤ、そしてエルグレコであることを再認識しました。

これが今の展示状態の写真。

以前はこのアーチ型の額に入った状態で展示されていました。違いは何かというと、絵の周りにエルグレコが筆を撫でつけた痕跡がしっかりと残っている部分が、アーチ型の額からキャンバスを出したことではっきりと分かるようになっているのです。エルグレコを100%楽しむために、彼の筆使いがこんなに残った状態で、最近は作品を鑑賞出来るのです。天才の作品はたったひとつのラインが違いを生むので、こんな風に鑑賞できることはより深く画家を知るためにとても有効です。

美術館見学の後は、歴史ある建造物の修復で有名な友人と合流。一般人に公開されていないプライベートチャペルに残るエルグレコに案内してもらいました。

エルグレコが作品を完成させてからずっと同じ場所に納まっている作品というのは、トレドには2つしかなく、そのひとつがこちらの作品です。数年前に30年振りくらいに一般公開されたことがあるそうですが、現在も見学申請をし特別許可がないと見る事は困難です。

エルグレコの作品の中でも最もイタリアンな作品と言われ、マニエリスムそのものの傑作。エルグレコがベネチア経由でスペインに辿り着いたことが全面的に強調されているような作品です。エルグレコの最高傑作と言われ、スペインに来たら必ず観るべき作品と言われる『オルガス侯爵の埋葬』の後に描かれた作品ですが、どこから観ても光り輝く宝石のようで官能的なエルグレコだと思います。

撮影は禁止されていたので、ウィキペディア上の画像を下にアップしました。

写真:De Jvallmitja – Trabajo propio, CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=98522687

このチャペルには、あと2つエルグレコによる祭壇画があったのですが、他は売却されており現在ワシントンのナショナルギャラリー所蔵になっています。

写真:De Jvallmitja – Trabajo propio, CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=98522564

写真:De El Greco – 1. The Yorck Project (2002) 10.000 Meisterwerke der Malerei (DVD-ROM), distributed by DIRECTMEDIA Publishing GmbH. ISBN: 3936122202.2. National Gallery of Art, Washington, D. C., online collection, Dominio público, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=152190

このナショナルギャラリーに売却されてしまった作品2点が今でもこのチャペルに残っていたら、スペインで最も豪華な宝石箱そのもののチャペルだったと思いますが、こんな作品を4点も依頼できる商人が当時はトレドに居たことはスペインでは注目されません。イタリアだったらきっとメディチ家やパッツィ家のようにストーリーが語り継がれているだろうと思います。

いずれにしろ、トレドを愛するスペイン有数の文化人にこのチャペルの解説をしてもらい、尊敬する美術品コレクターと共に、この未公開の貴重なエルグレコを鑑賞できたことは、一生の思い出になるひと時でした。

コメント

タイトルとURLをコピーしました