ヨーロッパに中世からあるという人生の虚しさを寓意的に表現する絵画の世界…こういうドクロがゴロゴロしているような絵画は、二十歳頃は目を避けてしまうようなジャンルでしたが、年齢を重ねるごとに不思議なもので、こういう世界に惹かれるようです。30代くらいからこのVanitasヴァニタスと呼ばれる空虚の世界にはどうも引き込まれてしまっています。
マドリードのAcademia de San Fernandoにあるこの作品。Vanitasを表現している絵画としては、もっとも美しい作品だと思います。通常、Antonio de Peredaという画家の作品と思われていましたが、数年前からFrancisco Palaciosの作品ではないかという論争もあります。
この作品は”El Sueno del caballero”【騎士の夢】というタイトルがついています。ピッタリすぎるタイトルですが、デスクの上に並ぶ財宝や時計、仮面など全てが象徴的に人生の儚さを表現しています。騎士の上に現れた天使がメッセージを持っていますが、ラテン語で”Aeterna pungit, cito volat et occidit”という言葉が書かれています。メッセージの中間に、騎士の方に狙いを定めた弓矢と背後には太陽。ラテン語の意味は、【永遠に傷つけ、迅速に飛び、殺す】。時間は人に傷跡を残しながら飛ぶように過ぎ去り、いつか死をもたらすということ。こんな美しい作品にこんなメッセージが含まれていると知ると、より弓矢を射られたようなインパクトがありますが、17世紀スペインの黄金時代、繁栄を極めていたはずの当時のスペインで、どのくらい貧しい精神が蔓延っていたのか想像させてくれる作品です。
私も年齢と共に、こういう作品の奥深い美しさをじっくりと愉しめるようになって来たのかと思いながら、この絵を鑑賞してまいりました。スペインを訪れるチャンスがあったら、是非この作品またはセビリヤにあるValdes Realヴァルデス・レアルなどの、Vanitas の傑作を鑑賞することをお勧めします。
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