食と美術 ムデハル様式

Art
美味しいオリーブオイルやワインを選ぶ時、必ず感動のあるものかどうかを大切にしています。自分の中で湧き上がる感動のレベルを知る事もとても重要だと思っています。そのために必要なのが芸術品との交わりです。最高と思える感動があった場合、食も美術も自分の中でなんとなく同じような部分が反応しているようで、特に完成度が高い食やワインの場合はカラダ全体の細胞が目覚めるような感じです。
田舎へ行く度に通るCuellarクエヤルに、スペイン独特のムデハル様式というイスラム美術の影響を受けた重要なチャペルがあるのですが、やっと何年越しかで見たかったものを見学できました。
スペインの歴史はイスラム、ユダヤ、キリスト教が混じり合い、とっても複雑なので未知の世界だと思いますが、これだけ文化交流があると豊かな美術史があります。その中でもムデハル様式は、基本的にアラビア建築がキリスト教徒の元で開花したものなので珍しく貴重です。
Iglesia de San Esteban Cuellar
外観は極めてシンプルなロマネスク建築。恐らく12世紀には創立されていました。
アラビックなモチーフを持つアブス(祭壇の後部にある半円形の周壁)。イスラム国にあるような建造物ですが、カスティーリャ中心部には膨大な数の煉瓦造りのこのような建造物が残っています。石造り100%キリスト教徒のロマネスク建造物と違い、理解するのに時間がかかるのがムデハル様式ですが、スペインがヨーロッパの中でも特別な歴史を形成している証でもあるムデハル様式は、知れば知るほど奥深い美しさのあります。
こちら2つの棺がずっと観たかった15世紀の石棺。オリジナルの色彩も残っています。
これがスペインのゴシック時代に造られた石棺で、デコレーションはアラビア様式にキリスト教徒の影響がたっぷりと含まれています。紋章は西洋のデザインですが、細部を見ていくとイスラムそのものの模様とゴシックもモチーフが上手く混ざりあっています。
食の世界だったら素晴らしいフュージョンと表現するのかもしれません。
ゴシックのモチーフはまるでボビンレースのようですが、イスラムの飾りも決して負けずより細かく豪華です。このような文化の融合が生む建造物やライフスタイルは、今でも根強くスペインに残り、生活そのもののベースにあるので、スペイン料理が豊かでないはずがありません。ぶどう畑やオリーブ畑ひとつ見ても、長い歴史に培われた膨大な人々の献身的な手仕事の痕跡が感じられます。
今、オリーブオイルやワインの世界を通じてスペインやポルトガルの魅力をお伝えする仕事をしていますが、背後に圧倒的な重厚感で食の素晴らしさを支えてくれている文化も一緒にできるだけお伝えしたいと思っており、どんな風に伝えたら良いのか、あまりに膨大すぎてどこから手をつけたらいいのか分からないくらいです。

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