スペイン語の不思議とアントニオ・デ・ネブリハ

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スペイン人は自らの歴史の偉大さをあまり語らない国というか、南米を侵略した野蛮な民族のような偽りのストーリーが蔓延し過ぎているために、本当の意味でスペインの姿は知られていないと思っています。

2022年は、天才ヒューマニストAntonio de Nebrijaアントニオ・デ・ネブリハの没後500年を記念する年でした。スペイン語を学んだ人でも知らない人が多いくらいの人物ですが、歴史に大きな足跡を残した人物です。どんな風にスペイン、そして世界のために偉業を果たしたのか今日はお伝えしたいと思います。

写真の中央でラテン語の教壇を取っているのが、アントニオ・デ・レブリハ。左で指導をうけているのがアントニオのパトロンであり、有名なアルカンタラ騎士団のマスターJuan de Zunigaフアン・デ・スニガです。マドリード国立図書館に保管されているIntroducciones Latinae第二版目の1485年手書きのコピーです。

15世紀ヨーロッパ中でベストセラーであり何十回も再発行された『ラテン語入門』という書籍で、難しいラテン語文法や文学についての教科書です。当時これ以上分かり易いラテン語についての専門書はなく、ヨーロッパ中で繰り返し出版され、レブリハはサラマンカ大学の教授として名声を博しました。18歳でイタリア、ボローニャ大学に留学しますが、スペインの大学で学べるラテン語のレベルが低いという理由からで、10年イタリア各地の大学で学んだ後に書いたこの『ラテン語入門』が大ベストセラーとなったという天才ヒューマニストでした。

レブリハにとって最も美しい言語はラテン語であり、ラテン語に近いロマンス語あり意味俗語(ラテン語を継承する言語の事、イタリア語、フランス語、スペイン語、ポルトガル語、ルーマニア語など)を深めるにもラテン語についての知識は絶対的なものだったのです。。

『ラテン語入門』だけでも偉業ですが、彼はその後ヨーロッパで初めて言語を体系化した『カスティーリャ語文法』Gramatica de lengua Castellenaという本を、イサベル女王に捧げて出版。文化的にも政治的にも大きな貢献をしました。15世紀後半スペインは、イスラム教徒をスペイン全土で鎮圧し、いよいよ全領土を回復します。この社会情勢の中、キリスト教に改宗した異教徒を古代ローマ人のように、帝国の公民権を与えて共存させていくために、正しい言語の知識は必要不可欠だったのです。奇遇にもこの『カスティーリャ語文法』は、1492年アメリカ大陸発見の3か月前に出版された恐るべき先見性を持った書籍だったのです。南米でのカスティーリャ王国の拡大に不可欠なツールとなったのです。賢いイサベル女王が広がるカスティーリャ王国を統治していくために、文法を規範化する事は欠かせない『帝国の道具』とレブリハはいつも語っていたそうです。言語の重要さは今も昔も変らないものだと強く感じます。

海外に住んでいると、日本語が英語やスペイン語のような国際語だったら、どんなにラクかと思う事がありますが、スペイン語の場合、このレブリハのお陰で言語の文法が極めて緻密に体系化され『書き言葉の統一』が謳われています。言語変化に歯止めをかけているので16世紀、17世紀と黄金時代の文学は、今でもそのままでかなり理解できるのです。ずっと江戸時代初期の言語がスペイン語では変化が少なく、現代人にも理解できるのか不思議だったのですが、理由はこのレブリハの考え方にありました。そして、南米の人々も素晴らしいスペイン語をマスターしていることに、いつも驚かされていたのですが、すべてこのような歴史的背景があったからこそで、あれほど膨大な領土の中でも知識が統一され、統括することが実現されていたのでしょう。これは英語圏新大陸アメリカでは成されていない、スペイン独特の快挙です。

レブリハの没後500年、最近スペイン語の重要性は新たな問題のある歴史解釈によって、消されているように思いますが、個人的にこの偉業を書かずにはいられませんでした。ちょうどマドリードの国立博物館でも展覧会があり、本が展示されていたのでより深い感動体験をしたばかりで、2022年最後に感謝の気持ちを込めて書かせていただきました。

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