スペイン・ルネッサンス音楽の巨匠
Antonio de Cabezón との出会い
ーカスティーリャにのオルガン文化とその背景ー
スペインの音楽史を語る上で、欠かすことのできない存在が
Antonio de Cabezón ——16世紀、スペイン王家に仕えたルネッサンス期を代表する音楽家です。
その名は、スペインの音楽やオルガンを愛する人々の間では広く知られていますが、一般的にはそれほど語られることの多い存在ではありません。
しかし彼は、当時のヨーロッパにおいて、最も洗練された音楽家のひとりでした。
スペインは世界的なパイプオルガン宝庫
■ 1. アントニオ・デ・カベソンとは
Antonio de Cabezón(1510年頃〜1566年)は、
スペイン・ルネッサンス期を代表する作曲家であり、オルガンやビウエラ演奏の名手。Antonio de Cabezón は、16世紀ヨーロッパにおいて最も洗練された鍵盤音楽家のひとりであり、スペイン音楽の基盤を築いた存在です。
幼少期、6歳頃に視力を失ったそうですが、
その音楽的才能により幼年期から教会で活動を開始。
盲目であったにも関わらず、彼らはヨーロッパ各地で演奏しながら王族と暮らしを共にしていたという事実には驚かされます。
■ 2. 宮廷音楽家としての出発
カベソンは、イサベル・デ・ポルトガル(カルロス5世の妃)専属音楽家として宮廷に迎えられ、その後カルロス5世、そして、フェリペ2世の時代にわたり、王家に仕える音楽家として長期間活躍。音楽家としての存在以上だったように思えます。
スペインがヨーロッパの中心であったこの時代、彼が操ったパイプオルガンは、最新の技術を詰め込んだ偉大な装置でもありました。
■ 3. ヨーロッパでの評価と聖遺物
エボラ大聖堂に残る天正少年使節団が聴いたと伝わるパイプオルガン
この時期フェリペ2世に謁見するために日本から派遣された天正の少年使節団も、日本にパイプオルガンを持ち帰った事は有名な話ですが、彼らは活版印刷機と共にヨーロッパで最も優れた装置を日本に大切に持ち帰っていますので、オルガンがどのくらいすごいものであったか想像できると思います。
カベソンの生地を訪れた際、ドイツのハイデルベルクでの彼の演奏があまりに素晴らしく、町から聖遺物が贈られたそうです。その聖ラウラの遺物はカベソン自ら生地の教会に贈られ、現在でも大切に聖遺物は守られていました。
カベソン生誕の地に残る教会に、ハイデルベルグで贈られた聖遺物は保管されている
これは単なる贈り物ではなく、彼の音楽が人々に深い感動を与えたことを物語る象徴的な出来事であると思います。
■ 4. オルガンとビウエラの音楽家
カベソンが演奏したビウエラという楽器は、ギターの前身となる弦楽器で、カベソンの音楽はビウエラで聴くとスペイン音楽の魂を感じます。
ギターの前身といわれるビウエラ
■ 5. カスティーリャとオルガン文化
カスティーリャ・イ・レオン地方は、スペインの文化的記憶が最も濃密に残る場所のひとつで、傑作といわれるパイプオルガンも数多く残っています。
カベソンと同時期の音楽家サリーナスSalinasのパイプオルガン。サラマンカ大聖堂
サリーナスのオルガン内部。パイプオルガンは内部の装置は職人独自の技術。ヨーロッパ各国で独自の音色が存在したそうです
単なる楽器の域を超えた芸術品で、
スペイン独自の音色を今に伝える貴重な文化遺産でもあります。
住人数人しかいないような小さな村にも、重要文化財に指定されたパイプオルガンが残っていることには、感嘆するしかありません。当時から人々にとってオルガンが貴重品であり、それが辛うじて現在にも伝わっていると感じます。
パイプオルガンは建築と一体となって、革新的な音響空間を生み出した装置であり、人々の精神性を培ってきたはずです。
教会という建築、そしてパイプオルガンは、それぞれが独立した存在ではなく、ひとつの特殊装置として機能するように設計されていたことが、すごい事だと思います。
サラマンカ大聖堂に残る、スペイン最古15世紀のパイプオルガンのひとつ
Antonio de Cabezón の音楽もまた、こうした空間の中で響くことを前提として生まれたものであり、ビウエラはこじんまりとした親密な空間で、弾かれる楽器だったのでしょう。
■ 6. パイプオルガンは歴史的にも最も重要な楽器
私はカスティーリャ・イ・レオン地方に家を持つようになってから、本格的にパイプオルガンの歴史を知るチャンスに恵まれました。
夏は、各地で教会に残る貴重なパイプオルガンの音色を聴くフェスティバルがあります。これはこの上なく贅沢な催しで、世界中から専門家だけでなく音楽ファンが集まります。スペインでしか聴く事ができないオルガンの音色は、わざわざ遠くまで旅する価値がある体験です。
■7.カベソンの生地Castrillo de Mota Judios
カベソンの生地、サンティアゴ巡礼ルートにある小さな町、Castrillo de Mota Judiosでも、オルガンの演奏会は開催されています。
Castrillo de Mota Judiosの教会。ここでカベソンは洗礼を受けました
洗礼盤。スペインで歴史は確かに触ることができます
こんな小さな町でも、16世紀の音楽家カべソンが確かに人々の記憶に残っていることを知り、心からスペイン文化を誇らしく思いました。
当時のオルガンのレプリカ演奏を、こちらからお聴きいただけます。手動のふいごというのが、とても興味深く当時の様子を上手く再現しています。https://www.youtube.com/watch?v=i6Fx_oE5R1A&list=RDi6Fx_oE5R1A&start_radio=1
こちらはビウエラ演奏。Jose Miguel Morenoという個人的に大ファンの演奏家です。https://www.youtube.com/watch?v=mEmg_LQB35k&list=RDmEmg_LQB35k&start_radio=1
※カベソンの生誕地については、noteで。
https://note.com/chihoonozuka/n/na25288a11b8a
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